胡蝶蘭は冠婚葬祭、またギフト用の花として、日本では定番です。
しかし、胡蝶蘭の原産地は日本ではありません。洋ランの仲間である胡蝶蘭は、熱帯の花です。赤道付近の東アジア諸国で今から180年以上前に見つかり、原種の状態からもっと見栄えよくなるように品種改良されて、今では世界各国、日本各地で栽培されています。
熱帯植物としての胡蝶蘭
開業祝いや開院祝いに贈られる花として定番の胡蝶蘭です。私たちが日々何気なく過ごしていても、新しくオープンしたお店の店先に飾られたりしていて、なじみ深いですよね。
そのため、胡蝶蘭はまるで日本原産の種のようにも思えるのですが、それは違います。日本での歴史はまだ浅いと言ってもいいほどで、伝わってきたのは明治時代のことです。それもイギリス経由から入ってきた、その時点である程度改良によって形が整えられ、白く美しい気品ある花弁をつける種です。原種の胡蝶蘭は、もっとどぎつい姿をしています。
それもそのはずで、胡蝶蘭は日本とは気候条件から何から異なる、野趣あふれる熱帯の植物です。主な原産地は、フィリピン、インドネシア、台湾の一部などの赤道付近。四季のある穏やかな日本とは違い、年中暖かい地域で育つ熱帯の植物です。今でこそ温室栽培の技術が発展して日本の農家でも花の咲くタイミングまで管理して生育させられるようになりましたが、熱帯植物で寒さに弱い胡蝶蘭は、実は、日本では本来育ちようもない種なのです。
熱帯雨林の中で育つ胡蝶蘭
胡蝶蘭の原産地は、日本にはあり得ない、じっとりと湿潤な熱帯雨林です。暖められた海上の空気が上昇気流となって、豊かな森に雨をもたらします。そのように形成された熱帯雨林は、年間の平均気温が19度を超えるという、日本本州とはまったく異なる条件です。
そのような熱帯雨林にルーツを持つ胡蝶蘭は、品種改良によってある程度調整されてはいますが、やはり一概に温暖を好みます。しかし一方で、一年中じっとりとした環境で育つにもかかわらず、「乾燥に強い」という特徴を持つ部分は、他の熱帯植物とは異なります。
なぜ湿度の多い環境で生育する胡蝶蘭は、乾燥に強いのか。
その答えは「熱帯の乾季に耐えるために進化してきたから」です。一年中じっとりと湿度の高い熱帯ですが、そうは言っても、無数の樹木が土壌の水分を奪い合う環境で、乾季には水不足に陥ることもあります。そのために、胡蝶蘭は、ごくわずかな水分でも生育できるように変化してきたと言われています。葉や茎が分厚いのも、水分や養分をその中にしっかりと蓄えておくため。熱帯雨林のタフな生存競争の中で、胡蝶蘭はそのような特質を身につけたわけです。
原産地から考える胡蝶蘭に望ましい環境
胡蝶蘭は熱帯の植物であり、本来、日本では育ちようもない植物である――とここまでは述べてきました。
しかし、とはいえそれは、基本的に原種の話です。今、日本のお店に出回っている胡蝶蘭の品種は、花の色から何から品種改良されて、そこまで環境を選ばないものになっています。また元から乾燥に強いことから、水やりの手間が少なくて済むのもいいところです。
ただ、もし貰った胡蝶蘭を少しでも長持ちさせたい、花の期間を長くしたい、というならば、やはりなるべく暖かいところにおいて、こまめに水をやるという手間を惜しんではなりません。そもそも熱帯のたくましい花ではありますが、人の手が加わると、より強い花になります。
原産地での胡蝶蘭の飾り方
日本ではちょっと気を使って管理する必要がある胡蝶蘭ですが、原産地では、花を長持ちさせるのも、特に手を加えずに、“そのままの状態でもいい”という気楽さがあります。
たとえば、胡蝶蘭の原産地の一つとして有名なシンガポールは、年間の平均気温が27度。まぎれもない熱帯で、高温多湿なので、胡蝶蘭はただ外に出しておくだけでも名が置きします。実際、胡蝶蘭以外でも、町にはランが溢れ、熱帯ならではという風景です。シンガポールの空の玄関であるチャンギ空港内にも、美しい紫の胡蝶蘭が咲いて飾られています。
また、タイでも同様です。国の気候が、そのまま胡蝶蘭が好む条件なので、外に出しておくだけでも見事に咲いています。もっとも、タイでは、胡蝶蘭やその他のランは、家の中にインテリアとして飾るのが好まれるようです。身近な花ではありますが、特に“特別な花”というわけでもないので、ギフトに贈ってもあまり喜ばれないという話もあります。
シンガポールやタイで飾られている胡蝶蘭は、非常に野趣あふれる、日本の気品ある純白の胡蝶蘭とはまったく違った力強い美しさがあります。
一度そのような原種(または原種に近い品種)を見ると、こんな花を輸入してみたい、と思うかもしれませんが、残念ながら胡蝶蘭はワシントン条約で守られている花でもあるので、原種を個人輸入するのは容易ではありません。栽培農家から国内の品種を買って贈るのが、まず一般的なところです。